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「枠を越える」リーダーを育てる新しい選択肢『産業僧対話』とは?Vol.2

 市場環境の変化が激しい時代、既存の事業や業界の常識の枠を越え、組織に変革をもたらす「枠を越える」リーダーが求められています。一方、次世代リーダーの育成を目指す多く経営陣や人事が、そのような人材を組織の内部でどのようにして育てるかという悩みを抱えているのではないでしょうか。

「枠を越える」リーダーを育成するためのキーワードは、「揺さぶり」とも言われます。「揺さぶり」によって、現状のままではいられない衝動が沸き上がれば「枠を越える」行動は起こります。しかし、いたずらに「揺さぶり」をかけたところで、リスクとなれば状況はかえって硬直し、むしろ枠は閉じる方向へ向かいます。そこで今回ご紹介するのは※「産業僧対話」という新しい選択肢です。リーダーが枠を越えられる「揺らぎ」を受け入れていく、これまでの育成とは異なるアプローチです。

「仏教×データサイエンスで7世代先まで存続できる企業創りを支援します。」をビジョンに掲げる株式会社Interbeingの創業者であり、ダボス会議のYoung Global Leadersとしても活動されている僧侶の松本紹圭氏と、同じく創業者でデータサイエンティストの大成弘子氏をゲストにお迎えして、アル―株式会社のエグゼクティブコンサルタント/京都大学経営管理大学院 客員准教授の中村俊介との対談形式で、枠を越える次世代リーダー育成に有効な産業僧対話について考えます。Vol.2では、産業僧対話で活用されているAI音声感情解析「観音テック」と今後の展望についてご紹介します。

※産業僧対話とは、「信頼できる第三者」であれる僧侶というユニークな立ち位置を活かし、企業で働く人に、「社員」としてではなく「一人の人」として、そして「関わり合う一人」として対話を重ねるInterbeing社の取り組み

本記事は昨年に開催したセミナー「枠を越えるリーダーの育て方:”産業僧対話”という選択肢」の内容を元に編集したものです。

この記事は、特にこのような方におすすめです。
・次世代リーダー育成の企画に役立つ情報を知りたい
・「産業僧対話」という手法に興味がある
・音声感情解析に関して何が分かるのか関心がある

プロフィール

松本紹圭
産業僧/株式会社Interbeing 代表取締役 Founder
世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leaders。日本政策投資銀行(DBJ)共創アドバイザリーボード。武蔵野大学客員教授。東京大学哲学科卒、インド商科大学院(ISB)MBA。著書『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は世界17ヶ国語以上で翻訳出版。翻訳書に『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』(あすなろ書房)。noteマガジン「松本紹圭の方丈庵」発行。ポッドキャスト「Temple Morning Radio」は平日朝6時に配信中。Forbes JAPAN(フォーブスジャパン)2023年6月号で、「いま注目すべき「世界を救う希望」100人」に選出。
 

大成弘子
株式会社Interbeing Chief Analytics Officer & Co-Founder
データサイエンティスト/ピープルアナリスト。「働く人々を幸福にする分析」を自分の生涯のミッションとして掲げる。2018年より一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会研究員に就任。2019年成城大学データサイエンス教育研究センターアドバイザリー委員に就任、2023年より非常勤講師。著書として、『データサイエンティスト養成読本~ピープルアナリティクス入門』2018年、『データサイエンティスト養成読本~ソーシャルメディアネットワーク分析』2016年、『プログラマのための論理パズル』(翻訳)2009年、「採用と活躍の技術」WirelessWire News(Web記事連載)2018年

中村俊介 
アルー株式会社 エグゼクティブコンサルタント
京都大学経営管理大学院 客員准教授
東京大学文学部社会心理学専修課程卒。
大手損害保険会社を経て創業初期のアルー株式会社に入社し、営業マネージャー、納品責任者、インド現地法人代表などを歴任。現在はエグゼクティブコンサルタントとして企業のリーダー育成を手掛けるほか、京都大学経営管理大学院「パラドキシカル・リーダーシップ産学共同講座」の客員准教授を務める。

観音テック AI音声感情解析ツールを通して組織の全体像が見えてくる


大成弘子氏(以下 大成 敬称略) 産業僧対話と合わせて提供している「観音テック」について私から説明をさせていただきます。対話の内容は非常にプライベートなものですから、会社をふくめて他者に共有することはありません。ただ、研修を企画する経営陣や人事としては、組織や個人がどのような状態で、どのように変化したのか気になると思います。そこで、何を話したかではなく、どんな声だったかに焦点を当て、Calm、Anger、Joy、Sorrow、Excitementの5つの感情がどのように流れているのか、AI音声感情解析を使って分析をします。個々の感情の要素の割合については、それほど重要ではなく、感情がちゃんと循環していること、波がちゃんと出ているかに注目しています。例えば、何かに強い執着を持っている人は、感情が怒りにずっと張り付いていることがあります。これは課題を抱えている状態であると判断します。

中村 俊介 (以下、中村) 怒りの感情があるから問題というわけではなく、ちゃんと上下の感情の波があるかどうかに注目して観察をしているのですね。

大成 その通りです。企業では、組織や個人の状態を診断する際によくアンケート調査をしていると思うのですが、アンケートは主観的な回答ですから、上手くいっていると思いたいリーダーが願望を込めてオール5をつけたりすることもあれば、その逆に、何らかの抵抗感から、あえて低い点数をつけることもあります。いずれにしても、点数の背景には、そこに現れていない願望やニーズが無数にあって、データだけでは本質が見えてこないことがあります。ところが声というものはフェイクすることができません。 例えば、私が疲れて家に帰ると、どんなに言葉で「元気です」と言っても、AIは「疲れていますね」と応答します。
また、一人の声だけでなく、そこに関わる人たちの声を集合的に見ていくことで、エンゲージメントの状態を知ることもできます。音声感情解析とエンゲージメントの関係にかかる研究を続けていて、昨年は論文を発表しました。

中村 音声感情解析と組織のエンゲージメント関係非常に興味深いです。実際に産業僧対話を組織に導入する場面では、こうした技術をどのように組織開発に活用しているのでしょうか?

大成 産業僧対話では、セッションの後、個人ではなく集団の声がどのようであったかを示すデータを経営者や人事に共有します。
一人ひとりの状態を捉えながらも、集団として、どのようになっているのか。怒りや悲しみに感情が張り付いているということが分かった場合には、それはなぜでしょうということを一緒に考えていきます。また、希望があれば、対話をした本人にご自身の音声データを共有することもできます。

松本紹圭氏(以下 松本 敬称略) 
私が一人ひとりと対話をさせていただきながら、試行錯誤を重ねてサービスをつくりました。「対話の内容」を解析しては、「信頼できる第三者」であることはできません。言葉ではなく「声の波」を解析させていただくことであれば、その方のもとに起きている具体的な事象はクローズドなものとして守ることができますし、ご本人にとっても抵抗感が薄いことが分かりました。対話は「一人の人として」行いますから、会社がそこに踏み込み過ぎては「一人の人」であれず、本心を声にしてもらうことは難しくなります。適切な距離感を保ちながら、組織や一人ひとりの感情を見ていくことができるという点は、音声感情解析の優れたポイントであると考えています。
 
大成 組織内の音声感情解析は、様々な発見に繋がります。例えば、役職別にExcitementの感情を見ると、役員は非常に高い一方で、社員は低いといったように、経営陣と現場でギャップがあることが分かったり、怒りが非常に高いグループを詳しく調べてみると、女性の待遇が良くないということが判明したり、様々なグルーピングの音声感情解析を通して、組織全体がどうなっているのかが見えてきます。

中村 
なるほど。組織開発をする際に、グループに対するコーチングをやることもあるのですが、予定調和な働きかけではチームの成長に繋がらないので、時には途中でチームが荒れるような状況をつくりながら適切に乗りこなすことがポイントになると感じていました。組織変革に取り組む際には、時に波風を立てながら前に進むということが重要になるのですが、その際に組織の温度感を見ていくというところでも音声感情解析が活用できそうだと思いました。

大成 
そうですね。継続して計測をすることで、日々、どんな感情が出ているのかを知ることができます。

中村 
音声を通して、チームメンバーの状態を定点観測していくパルスサーベイの取り組みなどを試してみても面白そうだと思いました。アンケートによるパルスサーベイはよくありますが、嘘をつけない音声感情解析を導入した場合、また異なる結果が見えてきそうな気がします。

ポイント
・観音テックとは、産業僧対話の音声をAI音声感情解析ツールで分析するサービス。Calm、Anger、Joy、Sorrow、Excitementの5つの感情を計測。社員の感情のエネルギー の変化を把握することで、主観に基づくアンケートでは見えてこなかった社員の想念や 潜在意識を明らかになる
・経営陣や人事には、集合的な音声の解析データを共有。解析の結果から、組織の状態、エンゲージメントなどが分かる。継続して計測をすることで、状態の変化を見ることもできる
・音声の解析を通して非侵襲的な方法で、個人や集団のありのままの状態に迫ることができる

今後の展望 産業僧対話を通して組織全体のエネルギー循環の改善に貢献する


中村 最後に、今回お話いただいた産業僧対話や観音テックについて、これからどのような領域で活用していく可能性が考えられるのか。今後の展望についてお聞かせください。
 
松本  
先ほど、「組織変革のためには、適切に荒れる状況をつくることも必要である」というお話がありましたが、強く共感をしていました。最近、組織開発の領域では、「心理的安全性」というキーワードが流行しています。確かに、組織の心理的安全性を確保することは重要だと思うのですが、ただ心理的安全性を高めればいいのかというと、それだけでは不十分だと考えています。ケアを必要としている人に対しては、まずは心理的安全性が高い環境をつくることが必要だと思うのですが、今、コンフォートゾーンに入っている人、仕事や人生が流し運転状態に入っている人には、「あなたの人生は本当にそんなものですか?」という揺さぶりをかけることが必要だと考えています。


中村 
確かに「心理的安全性」については、ただ高めればいいとうものではなく、適切な状態をつくることが重要であるという指摘があります。実際の会社組織の中でも、産業僧対話のコーリングのような「揺さぶり」を心のどこかで求めている人は多いような気もします。

松本 人間の感情は、平静であれば良い、ずっと喜びがあれば良いというものではない
と思います。感情のボラティリティーを認めてあげて良いのではないでしょうか。心や身体が求めているのに応じて、同じ曲調の音楽を聴いていても、気分に合わせて楽しい気分の曲やメランコリックな曲を聞いてもいい。人生を振り返った時、自分が自分らしい波であったということこそ、豊かに思えるのではないかと思います。そうした一人ひとりの内に湧く感情の波から、個人や組織のエネルギーが生まれてくるのではないかと考えています。そのようなダイナミズムを音声感情解析から読み解きつつ、個人や組織のエネルギーをいかに高めていけるかというのが私たちの今後の大きなチャレンジになります。
今は、一つひとつ重ねる対話に手ごたえを感じています。今後、さらに積極的にデータを活用しながら、どんな組織づくりに立ち会っていけるか。ご縁をいただく全国の様々な企業のみなさんとご一緒できることが、喜びであり、 楽しみです。
 
 大成  組織のエネルギーという点では、今後「循環」に注目をしていきたいと考えています。組織のエネルギーは高いか低いかだけではなく、「循環」しているかが重要です。血液と同様にエネルギーが循環していないと、組織は死んでしまいます。音声感情解析という一つのフィルターを通して、組織のエネルギーが健全に循環しているかを観察することに取り組んでいきたいと思います。

中村  
お二人のお話を聞いていると、組織開発でよく話題に上がる「シニア社員活性化」などのテーマでもこの産業僧対話と観音テックが活用できそうだと思いました。「流し運転状態」という言葉がありましたが、「もう昇進のためにがむしゃらになって働くという年齢ではないので、ぼちぼちやっておくか」いうモードになってしまっている人もいると言います。 会社としては、「シニア社員に活躍欲しい」という想いがあって、リスキリングやアンラーニングに取り組んでいるけど、研修だけでは中々変わらないというケースがたくさんありそうです。この産業僧対話と観音テックを組みあわせることで、シニア社員の例のように、今の組織が抱えている様々な課題について、新しい突破口が見えてくるのではないかと思いました。
本日は、貴重なお話をありがとうございました。

ポイント
・ケアリングとコーリングを通して組織のエネルギーを高めていきたい。
心理的安全性という言葉が注目されているが、それだけでは組織や個人は停滞する。時には「揺さぶり」を通して適度に荒ぶる波がある状態をつくる必要がある。そのような波から人や組織のエネルギーが生まれてくると考えている
・感情というフィルターを通して組織の状態を計測して、働きかけをしていくことで、組織の中でエネルギーが健全に循環している状態をつくることに貢献したい

ライティング協力:金井塚悠生


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