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STEAM教育の潮流から考えるグローバル人材育成

STEAMとは、科学・技術・工学・芸術・数学の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語です。STEAM教育とは、これら5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念で、「知る」(探究)と「つくる」(創造)のサイクルを生み出す、分野横断的な学びです。

アルーは、「夢が溢れる世界のために、人のあらゆる可能性を切り拓きます。」というミッションに基づき、社会人教育で培った人の成長に関わる知見で日本のSTEAM教育発展に寄与するべく東京学芸大学、東京学芸大こども未来研究所とSTEAM教育のプロジェクトを立ち上げ、1年間にわたり共同研究を行ってまいりました。そしてその成果を「STEAM 教育のすすめ*1」として発表いたしました。

本対談では、共同研究メンバーである東京学芸大学大学院の大谷忠教授と落合も理事を務める一般社団法人STEAM JAPAN代表理事の井上祐巳梨氏、アルー代表取締役社長の落合文四郎が共同研究の成果とSTEAM教育の今後について語り合いました。

*1:『STEAM教育のすすめ』

https://drive.google.com/file/d/1JZUW6yEjUjzYhzteanpMx7W1pUEahtrI/view

『国立大学法人東京学芸大学との共同研究成果報告のお知らせ』

https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS81552/cc2d3017/3df6/4b9f/85e8/eb641adfce7b/140120211112434198.pdf

※本稿は、2021年11月発行の当社機関誌 Alue Insight vol.5 『ポスト・コロナのグローバル人材プール構築はどうあるべきか』より抜粋したものです。

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東京学芸大学大学院 教育学研究科 教授
大谷 忠

東京農工大学大学院連合農学研究科修了。博士(農学)、博士(教育学)。2010年から東京学芸大学に赴任し,現職に至る。専門は林産工学と技術教育。特定非営利活動法人東京学芸大こども未来研究所理事長。2013年からこども未来研究所STEM教育プロジェクトを立ち上げ、STEM/STEAM教育を推進するとともに、2021年にSTEAM教育プロジェクトに改名し活動を広げている。


一般社団法人STEAM JAPAN 代表理事
井上 祐巳梨

日本大学芸術学部卒業。大手広告代理店を経て、2013年オーストラリア政府のキャンペーン「The Best Job in the World(世界最高の仕事)」で、世界60万人から日本人唯一の25名に選出。同年6月に株式会社Barbara Pool 設立。企業・地域の課題を解決するクリエイティブ事業を主体に、多数のプロジェクトに携わる。2019年にSTEAM事業部を立ち上げ、WEBメディア「STEAM JAPAN」の編集長に就任。同時期に、経済産業省『「未来の教室」実証事業』に採択。2020年文部科学省ICT活用教育アドバイザー事務局。一般社団法人STEAM JAPAN設立、代表理事に就任。


アルー株式会社 代表取締役社長
落合文四郎

東京大学大学院理学系研究科修了。株式会社ボストンコンサルティンググループを経て、2003年10月株式会社エデュ・ファクトリー(現在のアルー株式会社)を設立し、代表取締役に就任。「夢が溢れる世界のために、人のあらゆる可能性を切り拓きます」をミッションに掲げ、企業の人材開発・組織開発に取り組むほか、個人としても「教育は選択肢を広げる」という信念のもと、STEAM教育のプロジェクトに携わるなど公教育にも活動の範囲を広げている。


STEMにAを加えたSTEAM教育とは?


落合文四郎(以下、落合) STEAM教育のプロジェクトでは私自身も学びがたくさんありました。今日はぜひその成果をご紹介できればと思っています。STEAMとは、科学・技術・工学・芸術・数学の頭文字を組み合わせた造語ですが、そもそもSTEAM教育が注目されるようになった背景とはどのようなものだったのでしょうか?

大谷忠氏(以下、敬称略) まず、技術革新などで私たちの生活が大きく変わっていく中で、新しい教育のあり方が求められているということが背景にあります。

今必要なのは、これまで学校教育で大切にしてきた「認識すること」に重点を置いた教育に加え、認識したことを社会に活用し、広く創造していくことができる教育なのですが、それこそがSTEAM教育なのです。

落合 海外ではA(芸術)が入っていないSTEM教育という表現で推進している地域もあるようですね。

大谷 実は海外では、STEM教育を受けていないと仕事に就くことすらできないという国があり、その国の教育の問題になっています。ですので、まずはSTEM教育をしっかりしようという流れになっているのです。一方で、日本はもともと教育格差が少ない国です。テクノロジーもうまく使いこなしているし、教育水準も高い。だから日本では、課題を解決できるSTEMに、想像を広げるAを加えたSTEAM教育が合っているのです。

落合 なるほど。井上さんは海外の教育にも詳しいですが、現状をどう見ていますか?

井上祐巳梨氏(以下、敬称略) 世界的にも、「つくる」(創造)に重点を置いた分野横断的な学びに移行してきていると感じますね。STEM教育先進国のアメリカでは、2010年から2015年までの間に国家戦略としてのSTEM法が確立されていました。最近では各国、STEM教育にA(芸術)をプラスしたSTEAM教育へと定義を拡張する動きも見受けられます。これからの時代には、STEAM領域の理解と学びを具体化する能力がますます必要になってくると思います。

主体的真理とSTEAM教育の関係


落合 私自身が、このプロジェクトを立ち上げようと思ったのは、社員育成サービスを提供している中で、「問いが与えられれば答えを導ける人はいても、自ら問いを立てることができる人は少ない」という問題意識があったからなんです。その理由のひとつに、「個人としてどうありたいか」よりも外部基準や組織の論理を優先させてきたことがあると思っています。

大谷 同感です。共同研究の成果である「STEAM教育のすすめ」の5つの要件にも入っていますが、「あるべき姿」を起点にするのではなく、まずは「ありたい姿」を見出し、描くことを起点とするのがSTEAM教育の特徴ですからね。

落合 Alue Insightでもよく言っていますが、私は「主体的真理」といって、自分固有の大切にしていることや、生きる目的を起点にしています。主体的真理とSTEAM教育はすごく通じるものを感じます。


STEAM教育5つの要件


井上 落合さんから主体的真理の話を聞いた時に、すとんと腑に落ちたんです。「自分がワクワクすることと社会課題の解決、どちらをやるの?」と言われることがありますが、どちらかではなくて、ワクワクすることが土台にあって、その先に課題解決があるんですよね。

大谷 そうですね。STEAM教育の7つのプロセスの初めにくるのが「私のありたい姿」の構想ですが、STEAMのAこそが「ありたい」を描く力です。例えば、携帯電話は生活を便利にしてくれましたが、そこに機能を100個入れるのはSTEM。でも、「そもそも何のために携帯を持つのか?」から考えるのがSTEAMなんです。

落合 日本の教育水準は高いと思うけど、やはりカリキュラムに沿ってそれを習得する比率が高いと感じます。これからは、個人の「ありたい」をどれだけ教育に混ぜ込んでいけるかがポイントになってくるでしょう。そういう意味でも、STEMではなく、STEAMにしたのはとてもいいポイントだと思います。

大谷 学校教育で「総合的な学習(探究)の時間」がありますが、それとSTEAM教育はどう違うかと聞かれることがよくあります。STEAM教育は、実社会・実生活に自ら関わり、社会実装を目指すところが特徴です。「総合的な学習(探究)の時間」は、その手前の「まとめ・表現」がゴールになっています。「知る」(探究)と「つくる」(創造)のサイクルを生み出すことがSTEAM教育の大事な側面ですが、この側面をうまく学校教育に取り入れることによって、創造に基づいた、さらなる深い探究が子どもたちに導かれるのです。

落合 「知る」(探究)と「つくる」(創造)のサイクルは大事ですね。企業でも、「知る」の比重が大きくて、計画を十分に立ててからでないとつくりにいかない傾向にあります。本来は、知りながらつくり、つくりながら知るはずなんですけど…。

井上 よくあるのが、地域の特産物を海外に売ろうという探究活動で、「こうやったら売れるんじゃないかな?」と子どもたちがいろいろ考えて、レポートにまとめます。レポート自体はすばらしいのですが、「まとめ・表現」にとどめてしまっているのがもったいないといつも感じます。STEAM教育では、そのアイデアを生かして海外に実際に売り込むところや、実社会につながるアウトプットが非常に重要ですよね。

大谷 探究活動あるあるですね。これまでの学校教育は実社会と距離を置き、学問的な「知識・技能」を獲得することに重点が置かれてきました。それに対し、学び手が実社会に関わり、変化を起こすことを目指すのが、STEAM教育の重要なポイントです。


STEAM教育の7つのプロセス


グローバルに活躍するためのSTEAM教育


落合 今号のテーマはグローバル人材ですが、STEAM教育はグローバルで活躍するためにも重要ですね。

井上 プロジェクトメンバーでもある東京学芸大学の金子嘉宏先生や、シリコンバレーに住む私の姉も「Aを言い換えると、ビジョンを描く力」と言っていて、本当にそうだな、と。今の日本には、ビジョンを描けるリーダーがあまりいません。以前省庁の人と話した時に、「日本はアジェンダファイトが弱い」と言われたのが印象的で。

落合 確かに、各国せめぎ合っている中で、日本はアジェンダ設定の時点で負けていることが多いかもしれませんね。

井上 日本はSTEMは強いので、STEAMで世界に渡り合えるようになりたいですね。先日、大分県の「女性活躍推進事業」で、2020年に米TIME誌初の「Kid of the Year」、「最も優れた若きイノベーター」を受賞した15歳の女性科学者、ギタンジャリ・ラオさんの講演会を行いました。彼女が、「学生が何か行動を起こしたいと言ってきたら、『YES』と言ってください。学生が一歩踏み出そうとすることをサポートしてください」と言っていたのが印象に残っています。一人ひとりの「ありたい」を大切にするためには、周りの教師、大人たちのサポートも重要だなと感じます。

大谷 同感です。子どもたちには、「未来をつくるのはあなたたちだよ」と伝え続けたいですね。幼稚園や保育園では、「やりたいことをどんどんしなさい」とまさにSTEAM教育を体現しているのですが、小学校以降になると急に「これをしなさい」になるのも課題です。

落合 グローバルで活躍するためにも教育は本当に大事なので、子どもたちへのSTEAM教育を広げたいですね。ただ、彼らが大人になるのを待つだけではなく、産業界も同時にSTEAM教育を体現していくことも重要だと思います。

井上 学校教育と社会の境界線はどんどんシームレスになってきていると感じます。年齢や性別、国籍などに関わらず「どう生きるか?」を考えるタイミングだと思います。

落合 STEAM教育の研究成果を広く産業界にも還元していきたいと思っていますので、お二人にも引き続きお力を貸していただけるとうれしいです。本日はありがとうございました。


※本稿は、2021年11月発行の当社機関誌 Alue Insight vol.5 『ポスト・コロナのグローバル人材プール構築はどうあるべきか』より抜粋したものです。

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※記事の内容および所属等は、取材時点のものとなります。


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