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育成の個別化に活かせる「パーソナリティ診断」の可能性

現在、企業の人材育成・教育研修領域において、「個別化」が大きなテーマとなっています。 そうした流れを受けてアルーでは、個人を深く知ることで、 人材育成の個別化に活用することができる「パーソナリティ診断」の開発に取り組んでいます。 本対談では、「パーソナリティ診断」を共同開発している早稲田大学文学学術院教授の小塩真司先生に、 商品開発部部長の須藤賢太郎とAlue Insight 編集長の中村俊介が、 育成の個別化に活かせる「パーソナリティ診断」の可能性について聞きました。

※本稿は、2022年5月発行の当社機関誌 Alue Insight vol.7 『2022年度新入社員レポート』より抜粋したものです。
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※記事の内容および所属等は、取材時点のものです


小塩真司
早稲田大学 文学学術院 教授

教育心理学、パーソナリティ心理学の専門。著書に、『Progress & Application パーソナリティ心理学』『SPSSとAmosによる心理・調査データ解析 第3版』『大学生ミライの因果関係の探究(ストーリーでわかる心理統計)』『性格がいい人、悪い人の科学(日経プレミアシリーズ)』などがある。

須藤賢太郎
アルー株式会社 商品開発部 部長

青山学院大学大学院経営学研究科修了。青山学院大学総合研究所特別研究員を経て、アルー株式会社入社。商品開発部にて、育成プログラム開発に携わる。

中村俊介
アルー株式会社  Alue Insight 編集長

東京大学文学部行動文化学科社会心理学専修課程卒。営業や納品責任者などを歴任し、現在はビジネスリーダーの育成やプログラム開発に携わる。著書に『ピラミッド構造で考える技術』などがある。


人のパーソナリティの研究とは?



中村俊介(以下、中村) 今日は、「パーソナリティ診断*1」 を共同開発している小塩先生と一緒に、人のどんなこと を理解していると成長の個別化に役立てることができるのかについて考えていけたらと思います。

*1:社会人を対象として、個々人の特性を診断した上で、一人ひとりに合わせた成長フィードバックを行うサービス

須藤賢太郎 (以下、須藤) 元々、社内で、心理検査など を育成に活用できないかと考えており、既存の診断ツー ルの活用に悩んでいたところ、Alue Insight Vol.02 (2021年度5月号)にご登場いただいた熊本大学の合田先生からパーソナリティ心理学の第一人者である小塩先生をご紹介いただきました。それから診断ツールそのものを一緒に開発するという選択肢があると思い、現在開発中の「パーソナリティ診断」が生まれました。

中村 本題に入る前に、まずは先生が普段研究しておられることや最近関心があるテーマについて教えてください。

小塩真司(以下、小塩) 私はパーソナリティの研究、つまり人の性格の研究に取り組んでいます。人のパーソナリティがどのように形成されていくのかについて大規模なデータを元に考えるのですが、集団に注目をすることで見えてくること、住んでいる場所によっての特性や、 進化の過程での変化、何故そのパーソナリティが淘汰されずに残っているのか等について研究をしています。例えば、この前論文になったものでは、日照時間がパーソ ナリティに与える影響をまとめたものがありますが、数万人規模のデータからその地域差を考えるということをやっています。住む場所から人がどのような影響を受けるのか、またその場所を選択するということは人のどの ような特性を表しているのかについて考えています。

中村 なるほど。住んでいる地域の気候等の特徴から人が受ける影響もあれば、そういう地域を選択して住んでいるということから分かるその人の特徴もあるということですね。

企業で考えても同じようなことが言えると思いました。 ある企業に集まる人たちや辞めずに残っている人たちのパーソナリティは、その企業の文化から影響を受けていると考えることができると同時に、そもそもその企業を選択するというところでパーソナリティに一定の傾向があると言えるのかもしれないですね。

小塩 そうですね。例えば、東京都内に引っ越してくる際にどの街に住むのかは大きなポイントになります。選択から見えてくること、環境に影響を受けること両方あると思いますが、パーソナリティを持つことが、その人の日常の生活にどのように結びついていくのかについて、様々な観点から考えているというのが最近の研究活動です。

「性格特性」「精神的成熟」「メタ認知」


須藤 現在、小塩先生とアルーが共同開発している 「パーソナリティ診断」は、「Big5」「メタ認知」「精神的成熟」の3つの項目から構成されていますが、それぞれはどういうものなのでしょうか?

パーソナリティ診断

小塩 Big5は、人間のパーソナリティを大きく5つの軸 に分けて考える研究から生まれたものです。性格特性として、①外向性 ②知識の開放性 ③協調性 ④誠実性  ⑤神経症的傾向の5つのカテゴリから、一人の人間の全体的な方向性が分かるというものになっています。

メタ認知は、いわば自己を客観視する力です。認知活動について、自分自身がどの程度認識をすることや調整することができているかについて考えます。メタ認知に関する研究は学校の勉強を題材にしたものが多いのですが、メタ認知の能力がうまく獲得されると、勉強のやり方について、より戦略的に考えて工夫をするということなどに繋がります。

精神的成熟は、アルーさんからの提案を受けてつくった概念ですね。人間にとって成熟とは何なのか?というのは中々難しい問いですが、企業の中での成熟とは何なのか?と場面を限定することで考えることが可能になると思いました。企業の中での成熟とは、そこで働く多くの人が「これがより成熟している状態だろう」と同意する ものとして考えることができると思います。なので、企業で働く人から「より成熟した状態」というのがどういうものなのかを出していただいて、それを測定するということを考えました。

精神的成熟の高まり
精神的成熟度の高まり

須藤 精神的成熟については、こちらからの強い希望で、先生に開発プロセスをご指南いただきながら進めてきたものです。アルーの「パーソナリティ診断」では、この3つの項目を測定した上で、「Big5」に「精神的成熟」 を掛け合わせたもの(性格特性診断)とメタ認知の2つにまとめてレポートを出すことになっています。

「パーソナリティ診断」の活用の可能性


須藤 これからはより具体的に、育成の個別化に役立てるためにはパーソナリティ診断をどのように活用してい くのが良いか小塩先生にお話をうかがっていきたいと思います。「パーソナリティ診断」について、先生につくっていただいたものを使って、これから800名くらいを対象に調査を進めていく予定となっています。診断結果をレポートにまとめて本人に届ける際に、どんなことを意識してレポートを読んでもらうと、本人の自己理解を深めて成長を後押しすることに繋げることができるので しょうか?

小塩 やはり結果を見て「へぇー自分はこうなんだ」と思うだけではそこで終わってしまいますよね。結果を見た際に、違和感があるところはないか、あるとしたら、 自分が予想していた内容とどう違っているのかを考えてみると良いかもしれません。また、結果を踏まえて、理想はどうなりたいのかということを考えてみても良いと思います。理想としてはこうなりたいと思った時に、どうやって行動を変えていったらいいのかを考えて行動をしてみるということもできると思います。

須藤 なるほど。「Big5」は、5つの軸について考えることで、人間のおおまかな方向性を知ることができるものであるというご説明がありましたが、診断結果を出す際にはどのようなかたちでアウトプットをするのが良いと思われますか?

小塩 偏差値換算するのが一番良いと思います。データ を蓄積していく過程で、元になる標準偏差は常に改定し ていって、個別には偏差値を提示する。パーソナリティ心理学における測定は、原点が決まっていないので、すべて相対的に決められるんです。ある傾向が強いか弱いかは、他の人より強いか弱いかで決まるので、相対的な表現としては偏差値で考えていくのが良いのではないでしょうか?

中村 母集団をどこにとるかによっても結果が変わってきそうですね。あなたは絶対にこれであると決めつけるものではなく、相対的に見ていくものであるということを踏まえて活用していく必要があると思いました。

須藤 最後に、「Big5」の5つの軸から分かる個人のパー ソナリティと仕事のパフォーマンスの関係についてお話をうかがいたいと思います。以前、誠実性が高い人は仕事のパフォーマンスが高いという研究があるが、誠実性以外は直接繋がりがないというお話をしていただきましたが、これはどういうことなのでしょうか?

小塩 ちゃんと計画を立てる。約束を守る。時間通りにやる。というのが社会生活の基本ですよね。基本的な生活習慣を守ることは、信頼性が高くなることに繋がるので、どんな職業でも代替が効く資質と言えるわけです。 他の軸については、何と組み合わせるかによって個別のパフォーマンスが変わってくると思います。

須藤 つまり、業界や業種が変わってくるとパフォーマンスの高い人のパーソナリティも変わってくるということですね。

小塩 そうですね。また、同じ行動をしているように見えても、そこに至るプロセスが違うということもありま す。例えば、約束を守るということを考えた時に、一見誠実性が高いから守っているように思えますが、神経症傾向が高いから守っているという可能性もあります。まさに私がそうなのですが、例えば、締め切りが迫ってく ると不安で仕方ないから早めにやっちゃうというような ケースですね。なので、個別にアプローチをする際には、その人がどういうプロセスでそうした行動に至っているのかということについても、しっかりと把握していく必要があります。

中村 なるほど。人のパーソナリティを理解することの重要性がよく分かりました。今後もまた、様々な人材開発サービスへ活かしていく方法を考えていきたいです ね。

須藤 先生のお話を伺い「パーソナリティ診断」 の活用についてイメージが広がりました。引き続き、人材育成への活用の可能性を探求していきたいと思います。

※本稿は、2022年4月発行の当社機関誌 Alue Insight vol.7 『2022年度新入社員レポート』より抜粋したものです。

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※記事の内容および所属等は、取材時点のものです。




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